2006年8月 2日 (水)

恩田陸「エンド・ゲーム」

0608_onda_tokono3 恩田陸の常野シリーズ3作目「エンド・ゲーム」。(第1作目は「光の帝国」、第2作目は「蒲公英草紙」)

Amazonの内容紹介はこんな感じ:

出版社 / 著者からの内容紹介
「常野物語」の最新作、早くも登場!
「裏返さ」なければ「裏返される」??正体不明の「あれ」と戦い続けてきた拝島親子。だが母が倒れ、残るは一族最強の力を持つ娘だけに。息もつかせぬ展開の果てに、驚愕の真相が明らかに!

内容(「BOOK」データベースより)
裏返されたら、どうなる?正体不明の存在「あれ」と戦い続けてきた一家。最後のプレイヤーとなった娘が誘い込まれたのは、罠と嘘の迷宮だった。「常野物語」最新長編。

「光の帝国」ですっかり心を掴まれてしまったのだけど、「蒲公英草子」ではちょっとがっかりさせられた。3作目となる本作でどうなるか・・・と期待半分、不安半分で読み進めました。

まず最初に、この作品も前作と同じく、「光の帝国」を読んでから読んだ方が良さそう。用語についていけなさそう、というのもあるし、結論を先に言ってしまえば、やっぱり「光の帝国」の方が面白い。

だけど、この「エンド・ゲーム」は読む価値があった。この作品のベースになっている短編「オセロ・ゲーム」は常野シリーズの中でもちょっと独特というか、肉感的なグロテスクさが漂う作品で、他の作品とちょっと違う風合いを呈していた。私はその感触がこう咽に突き刺さった骨のように気になって頭から離れなかった。ので、こうした中~長編の題材に「オセロ・ゲーム」が使われているのは、実に期待をかきたてられた。

本作品のテーマは、やはり「価値観を疑え」ということだろうか。いつも「オセロ・ゲーム」のように白黒はっきりつけられるとは限らない、目上の人間の言う事がいつも正しいとは限らない、正しいものがいつでも・いつまでも正しいとは限らない。

特に、常野の超能力が陳腐化していくというテーマ周辺は、実に切なかった。これは私たちエンジニアにも言えることで、今まで色々と身に付けて来たつもりの知識・スキル・経験が、本当に今でも役に立つのかどうかということは常に問い続ける必要がある。それは超能力の世界でも同様・・・切ない。

ラスト近辺の慌てっぷり、バタバタした感じは、賛否両論だろうなあと感じた。「解決は?これで終わり?」と思う反面、「白黒きっちり説明されるよりも、これからの作品を楽しみにしよう」と思うところもある。まあ、これはこれでいいんじゃないだろうか。

10点満点で8点。

常野だより」なるwebサイトを発見。こういう世界観がしっかりしている作品には、こういうwebサイトがあるといいね。

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2006年7月31日 (月)

横山秀夫「クライマーズ・ハイ」

0607_yokoyama_clim_1雫井脩介の「犯人に告ぐ」が実に面白かったので、この手の本が読みたくなった。 となればまずは本家(?)の横山秀夫。年始に読んだ「半落ち」のコメントで、たにじんが薦めてくれた「クライマーズ・ハイ」を読みました。

Amazonの内容紹介はこんな感じ:

内容(「BOOK」データベースより)
1985年、御巣鷹山に未曾有の航空機事故発生。衝立岩登攀を予定していた地元紙の遊軍記者、悠木和雅が全権デスクに任命される。一方、共に登る予定だった同僚は病院に搬送されていた。組織の相剋、親子の葛藤、同僚の謎めいた言葉、報道とは―。あらゆる場面で己を試され篩に掛けられる、著者渾身の傑作長編。

何と言うか・・・主人公の悠木がとにかくオヤジとかぶって、非常に複雑な思いをしながら読んだ。この作品のテーマは組織であり、親子であり、報道。そして何より全体を貫くのは、「世代」。世代とは何か、それはどのようにして作られ、どのような仲間意識と断絶を生むのか。そして世代交代。

私たちもこの現代から、新たな次代への過渡期に生きている訳で、その中で「世代とは何か?」ということを改めて考えさせるとても良い作品だった。ただ悪く言えば、旧世代の感覚にどっぷり漬かった視点から物分りの良い年長者を演じて悦に入っているような意識も多々感じられた。それもまあ作品のテイストではあるのだが、少なくとも今の私にはあまり心地の良い視点ではなかった。この辺りは、きっとこの本をもっと若い時や、もっと歳を取った時に読めばまた違う印象を持つ点なのだろう。

とにかく泣いたのは、墜落しつつある飛行機の中で、ある乗客が家族に宛てて書いた遺書の一文。

「本当に今迄は 幸せな人生だったと感謝している」

これは実際にあった遺書の文章であり、横山秀夫によるものではないわけなのだけれども。自分はおそらく死ぬだろうとわかった段階で、家族にこのような文を残せる人間というのは、どのような人間だったのだろうか。私が同じような状況に置かれた時に頭に浮かぶのがこうした感謝の言葉であるように、私自身がありたいと思った。

 

グダグダといろいろ書いてしまったが、要するに非常に面白かった。「犯人に告ぐ」を読んだ時は、「横山秀夫の時代も終わり、雫井脩介の時代が来るか?」などと思ったが、こうして続けて2冊を読んでみると、二人の目的地はまるで違っていた。雫井脩介は雫井脩介で実に素晴らしかったが、横山秀夫は横山秀夫で凄まじい境地に達していた事を認識した。

10点満点で・・・9点かな。

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2006年7月25日 (火)

雫井脩介「犯人に告ぐ」

0607_shizukui_hannninn本屋をうろうろしていて、雫井脩介の本についているポップがぐっと来た。試しに買ってみた「火の粉」が「上手い!」と思わせる内容で、人間の内面というものを実に見事に描写していた。

その後も「虚貌」も面白くて、2005年の「このミステリーがすごい!」8位に入った本作品「犯人に告ぐ」を今回読むに至りました。

Amazonの書評はこんな感じ:

内容(「BOOK」データベースより)
連続児童殺人事件―姿見えぬ犯人に、警察はテレビ局と手を組んだ。史上初の、劇場型捜査が始まる。

舞台の設定はなんとなく宮部みゆき「模倣犯」を思い出す。でも内容的には宮部みゆきと言うよりは、横山秀夫かなあ。

今回の作品は、組織というものの内面がよく描かれていて、読みながら本当に横山秀夫を何度も思わせるものがあった。次世代の横山秀夫と言ってもいいかもしれない。

特に決めの台詞が本当に良かった。「犯人に告ぐ。今夜は震えて眠れ」にはぐっと来た。いや~格好いい!(まあ実際には台詞はちょっとずつこれと違うのだけど)

また、最後の方の台詞にもゆったりと感動した。 「人を叩き過ぎちゃあ、いかんのです・・・」 「叩けば誰でも痛いんですよ・・・」 「痛そうじゃないから痛くないんだろうと思ったら大間違いだ・・・それは単にその人が我慢してるだけですからな」

終章の辺りはちょっと面白さやまとまり、読後感に欠けるところがあって、これが実に残念・・・。まあ無難な着地はしているんだけど、ここにもう一味あったら「このミステリーがすごい!」1位は堅いだろう、と思わせるぐらいの出来だった。あと少し、本当にもう一息ですごい名作。

本を読んでいてここまでテンションが上がったのは結構久しぶりかもしれないというぐらい、一気に読んでしまいました。この本・この作家は、お勧め。これからもどんどんいい本を書いてくれると期待しています。

10点満点で8.5点、いや9点。

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2006年7月18日 (火)

恩田陸「ライオンハート」

最近なんだか恩田陸づいている。今回は「ライオンハート」。060717_onda_lionheart

Amazonの書評はこんな感じ:

内容(「BOOK」データベースより)
それがどうして始まったのかは分からない。神のおぼしめしなのか、気紛れなのか、手違いなのか。私たちは何度も出会っている。結ばれることはない。でも、離れた瞬間から、会う瞬間を待ち続けている―生まれる前も、死んだあとも。あなたを見つける度に、ああ、あなたに会えて良かったと思うの。いつもいつも。会った瞬間に、世界が金色に弾けるような喜びを覚えるのよ。いつも、うれしかった。覚えていてね、わたしのライオンハート…。いま最も注目を集めている作家・恩田陸が贈る心に響くラブ・ストーリー。

内容(「MARC」データベースより)
離れた瞬間から会う瞬間を待ち続けている。生まれる前も、死んだあとも-。いくつもの時代を必死に生き、細胞に刻まれた想いを頼りに、束の間出会い別れていく男と女。求め合う二人の感情を描く連作集。〈ソフトカバー〉

運命の相手とか、生まれ変わっても貴方に会えるとか、刹那の出会いとか、想い合っても結ばれないとか、なんだか少女漫画の定番っぽい設定に、軽く引きながらも読み進める。短編のような作品を重ねながら、徐々に物語の核心にせまっていくような構成の作品。こういうのって寝る前にちょっとずつ読み進めるのにぴったりで良い。

面白かった。やっぱりと言うか意外にと言うか、何度か泣く羽目になった。まあこういう雰囲気が鼻につくという人には向かないだろうけれども、たまにはこういう本も悪くないと私は思う。

オチ(カラクリ?)がちょっと弱い感じがあって、この辺は「うーん残念・・・」と感じたけど、まあこの作品のポイントは決してそういうところではなく、恩田陸が真面目にしっかりと取り組んだ少女漫画的なこの世界を楽しむべきなのだろう。耽美的で良かった。

10点満点で7.5点。

恩田陸はこういう女性視点の作品が実に上手い。「夜のピクニック」もそんな感じだったし、特に「ネバーランド」は、女性から見たら男子高のイメージってこんな風なんだろうな、って思った。

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2006年7月15日 (土)

恩田陸「蒲公英草紙―常野物語」

 恩田陸の常野シリーズ2作目、「蒲公英草紙」。(第1作目は「光の帝国」)0607_onda_tanpopo

 光の帝国にも出てきた一家も出てきて、光の帝国から読んでいた人には「ニヤリ」とするところもちょいちょいあるような作品。

 今作は前作のような短編集ではなく、1つの中編作品。印象としては、光の帝国が1時間の連続ドラマだとしたら、これはスペシャルの2時間ドラマという感じ。

 とりあえず泣いた。淡々とした澄んだ視点からの描写は実に見事で、「常野」というものがどう見られるのかということを、じっくりとうまく書き上げたと思う。

 だけど「光の帝国」に匹敵する面白さだったか、というと・・・うーん。小気味良く短編集を並べた前作の方が、遥かに面白かった。まあ前作で「常野」にはまったという私のような人はいずれにせよ読まなければならない本だとは思うけど、そこまでじゃないという人は「光の帝国」で十分だと思う。あれは面白かったもんな~。

 10点満点で7点。3作目の「エンド・ゲーム」に期待。

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2006年7月14日 (金)

貫井徳郎 「妖奇切断譜」

 東京へ向かう新幹線の車中、その他移動中に読了。0607_nukui_youki

 貫井徳郎が直木賞候補に挙がっていたことで、ちょっとまた読んでみようと思って図書館で貫井徳郎の本をぱらぱら見ていたら、この「妖奇切断譜」も貫井徳郎の代表作のひとつであるというような書き方をしていたのを見て、借りてみました。

 まずは誤算がひとつ。どうやらこれには「鬼流殺生祭」という前作があるらしく、そっちから読めばよかった。そのせいか、登場人物の記述が不十分というか、なんだかピンと来なかった。

 そしてグロテスクだった。なんというか、食事時に読みたくないようなタイプのグロテスクさ。こういうのあんまり好きじゃないんだよなあ・・・。

 そんなこともあり、いまいち楽しめなかったというのが感想。最初の話のふくらませ方は割と良かったのに、中盤を越え結末が近づくと、どうにもガタガタと音を立てて話が崩壊していっているような印象。なんというか、大枠だけにとらわれて、肝心な細部がすっぽり抜け落ちているというか。もちろんこの作品にも見るべきところは多いのだけど。

 きつい事を言えば、この作品を読む価値は薄いと思う。貫井徳郎の作品が読みたければ「慟哭」「症候群シリーズ」がいいと思うし、こういうテイストの作品が読みたければ、京極夏彦をお勧めする。(この本に該当するのは「魍魎の匣」かな)

 もちろん言うまでも無く貫井徳郎は現代の優れた小説家の一人だと思う。それだけに残念。とは言え貫井徳郎の魅力がこれで減じた訳でもないので、今後も彼の作品は読んでいこうと思う。

 10点満点で6.5点。

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2006年7月 9日 (日)

アンディ・ライリー「自殺うさぎの本」

 本屋はいい。例えどんなにネット販売が主流になっても、本屋の良さというのは、そう簡単にはなくならないだろう。

 まず本屋はにおいが良い。新しい本のにおい、雑誌のにおい、そういうものがブレンドされた空間がまず良い。そして考え抜かれたレイアウトが良い。どの本を平積みにするか、どんな軸でコーナーをまとめるか、どの本にどんなポップをつけるか、そしてどの本を売りたいのか。(なので「本屋大賞」には期待している)

 話がずれていきそうなのだけど、今回述べたい本屋の良さのひとつは、新しい本に出会える可能性があるということだ。自分のまったく知らない作家・ジャンルの作品を思わず手に取り、「おぉ、こんな本があったのか!」と思えるというのは素晴らしい事だ。0607_bunnysuicide1

 で、そんな感じに先日出会った(というか嫁が本屋で読みふけっていた)本がこれ、「自殺うさぎの本」。続編「またまた自殺うさぎの本―まだまだ死にたいうさぎたち」もあるらしい。

 ひたすらうさぎ達が色々な方法で自殺していくという、どう聞いてもブラックでシュールな内容なのだけど、これが実に笑いを生む。その自殺方法がやけに遠回りで回りくどい(場合によってはよくわからなかったりするぐらい)ということや、うさぎたちの無表情さが、実にいい具合なのだ。 0607_bunnysuicide2

 著名人も絶賛しているらしい。

こんなにファニーでバニーな本は他にない(エルトン・ジョン)
綿密な取材の末 完成された、今年度の最高傑作(ヒュー・グラント)

 どんな感想だ。

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2006年6月10日 (土)

リリー・フランキー「美女と野球」

Frankey_1 うちの嫁も大ファンの、リリー・フランキー氏の本を初めて読みました。まあ言ってみれば「東京タワー  ~オカンとボクと、時々、オトン」を読むための助走というか。

1995年前後頃の様々な雑誌に載せたエッセイをまとめた本。氏の言動自体も対象を選びそうだけれども、本もやっぱりそんな感じだった。品の無いネタが予想以上に多かった。そして、とても面白かった。

リリー・フランキーの言動やキャラクターの良さは、ルールやモラル、世の風潮などにとらわれないある種のパンクにあるのだと思うのだけど、そうした突き抜け具合や真っ直ぐなところが感じられて、気持ち良かった。個人的な事を言えば、女性のヒゲ論や双子ネタなどがツボにはまった。

特に次の下りにはグッと来た。(氏のエッセイに「そんな奴らイルはずがない。作り話をするんじゃない」とコメントした読者に対して:)

自分の知らない事や理解できないことは無いモノと決め込んで、そんな奴呼ばわりする。あんたがどれだけ立派な生活をしているかは知らんが、あんた以外の人間はみんな、あんたじゃない。あんたの知らないところで、それぞれがそれぞれの環境で暮らしているんだよ。だからボクは出不精で面倒臭がりだけど、なるべく色んな人に会って自分が当たり前に思っていることを修正したいと思っている。自分の考えていることが正しい、と思うことが怖いからだ。

これはこのエッセイの根底に流れる意識の一つで、他にも既存の価値観や意識、権威に対する疑問などのネタも多い。

こうしてサラリーマンを長い事やっていると、得るものもあれば失うものもある。そのひとつが、「世の中はこういうものだ」という意識だろう。経験を重ね、知っていることが増えるにつれて、世の中の平均値や最頻値というものがわかってくる一方で、そうでないものに対する意識がおろそかになりがちでもある。「普通に考えればこうだろう」という意識が、10年前に比べればはるかに強くなっていることを感じる事も多い。

そういう私の意識に、この本はいい刺激になった。東京タワーを読むのが楽しみだ。

10点満点で8点。

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2006年6月 1日 (木)

東野圭吾「容疑者Xの献身」

 「探偵ガリレオ」、「予知夢」から続く、いわゆるガリレオシリーズ第三段にして第134回直木賞受賞作品の「容疑者Xの献身」を今更ながらやっと読みました。探偵ガリレオ、予知夢は文庫本だったのだけど今回はハードカバー。どれだけ長編だろうと思っていたのだけど、出張に向かう電車を半分も行かないうちに読み終わってしまいました。

 前にも書いたように、このシリーズは推理小説としてトリックが意外とかそういうものではなく、登場人物のキャラクターが個性的で楽しめる。今回は草薙・湯川の二人に加えて天才数学者の石神が登場。Amazonのレビューはこんな感じ:

出版社 / 著者からの内容紹介
数学だけが生きがいだった男の純愛ミステリ
天才数学者でありながらさえない高校教師に甘んじる石神は愛した女を守るため完全犯罪を目論む。湯川は果たして真実に迫れるか

内容(「BOOK」データベースより)
これほど深い愛情に、これまで出会ったことがなかった。いやそもそも、この世に存在することさえ知らなかった。運命の数式。命がけの純愛が生んだ犯罪。

まあ人目を引くためのレビューだからしょうがないと思うけど、「数学だけが生きがい」「命がけの純愛」・・・大丈夫かなあと心配になる。宮部みゆきも直木賞受賞作は「理由」だしなあ・・・。

とか不安を胸に読んだのだけど、面白かった!東野圭吾作品のベスト5には間違いなく入る。「秘密」「白夜行」はやっぱりずば抜けてるし、それに比べると大きく見劣りしてしまうけど、ガリレオシリーズの中では段違いに面白かった。

石神のストーカーすれすれの恋の重さ、この描き方は実に見事。湯川が草薙と石神との間、社会的責任や真実と友情や愛情の間とで悩むところも良かったし、湯川と石神が交わし合う台詞も良かった。「この世に無駄な歯車なんかないし、その使い道を決められるのは歯車自身だけ」。石神の行為を絶賛するのではなく、その想いの(色々な意味での)危うさをちゃんと描けていたところが良かった。「『純愛』って言えばなんでも許されるとか思ってんじゃねーぞ!」という作者の想いに共感。

でも一方で、期待に対する不満もある。

まず本来の主人公である湯川を筆頭に、キャラクターがあまり描かれていない。特に湯川のキャラクターは今までのガリレオシリーズの方が遥かによく描かれていて、この作品から読んだ人には伝わらなさ過ぎると思う。まあそれは他の作品も読めば済むだけのこと。でも石神ももうちょっと掘り下げないといけないんじゃないかと思うし、花岡親子もまだまだ描写の余地があるんじゃないだろうか。まあ映画が2時間の枠に収めないといけないように、小説にも長さの制限はあるだろうから、言い出しても切りがないと思いはするのだけど。

また、物理学者vs数学者の天才同士の戦い!というものを期待してしまったけど、そんなものは今回は微塵もなかった。悪く言えば「天才数学者ってそんなものかよ!物理学者もそんなものかよ!」というところ。自首すすめろよ。

 

とか色々文句もつけたけど、評価としては10点満点で9点。面白かった。読み終わった後の満足感がなんとも言えず心地よかった。読む価値あり。まあでも「探偵ガリレオ」か「予知夢」は先に読んだ方がいいかな~。と思って嫁には先に探偵ガリレオを読むように言いました。

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2006年5月24日 (水)

村上春樹「ねじまき鳥クロニクル」

またもや村上春樹の再読。今度はちゃんと第1部から第3部まで読みました。

これも最初は学生時代に読んだのだけど、あまりちゃんと理解できた気がしなかった作品のひとつ。あと長くてしんどかった。

この作品前半で主人公の奥さんが家出をしてしまうのだけれども、この部分を読んだ時に感じるものが学生時代と大きく変わっているのを感じた。具体的に言うと、夫婦の在り様の機微が結婚した事で理解できるようになったということだろうか。あまり考えたくない話だけれども、私の嫁だって家出をしてしまう可能性というのは0ではない。誰だってそうだろう。そしてそうなってしまったら、それがどれだけ自分にとって衝撃となるか、いかに自分が自分でいられなくなるかを想像して、その怖さや切なさを共感できた。これは以前は得られなかった感想。

全体としては、どのような状況でも(地味に)戦い続ける姿勢が気持ち良かった。それから、奥さんを信じ続けること、自分の歩いてきた道を顧み、自分を掘り下げること。

村上春樹の小説に出てくる主人公は、現実や出来事に違和感や距離感を感じ、あまり物事を主体的・能動的に捉えない(捉えられない)タイプが多いように思う。様々な状況で現実を生きていかなければならない私達には、こういう生き方もある種の清涼剤になると思うのだけれども、同時にそれによって何かを奪われていないかと心配になってしまう事がある。その点では、今回のオカダトオルは必要な事を必要なだけ行い、目的を達成したという点で読後感がとても良かった。

というわけで、間違いなく前回読んだ時よりも楽しめた。全て理解できたかと言われるとつらいところだけれども。まあそれにしても、やっぱり内容の割に長かった。出張に持っていくならせめて文庫版にするべきだったなあ。

これもノルウェーの森と同じく、採点はパス。

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